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グループ研究発表「選挙研究――選挙に行けば世界が変わる」

200507

橋本努ゼミ

担当:石山、福谷、森

 

 

はじめに

 今の日本の選挙を考えたとき、一番初めに思い浮かぶことはなんであろうか。「国民の意識が低い」ということが、頭に浮かぶ人が多いのではないかと思う。それは、顕著に投票率に数字として表れている。そこで、私たちのグループは、まず投票率を上げることを考えることを始めた。しかし、調べていくうちに、投票率が高くても政治に対する意識の向上が伴っていない国があることがわかった。つまり、罰金を課すなどして投票率を上げた場合、飛躍的に数字は上がるが、政治に対する意識の表れではないということである。民主主義である日本は国民の意見が反映されるような国でなければならない、それが「選挙」という形であるが、選挙権のある者が投票するということは、「義務」なのか「権利」なのかということは、様々な意見が出されているところである。しかし、義務あろうが権利であろうが、上で述べたように、ただ投票率をあげても政治も国民の意思もたいして変わったとは言えないのではないだろうか。上げなくてはいけないのは、意味のある票の数である。ここでいう「意味のある」とは、国民が自分の意見を持って投票したものをいう。私たちは、意味のない投票はいらない、意味のある投票はどのように増せるかと考えた。どのようにすれば、国民の政治への関心は上がるのであろうか。

 

有権者の現状 

 まず、私たちはなぜ投票に行かないかを考えた。政治のことがよくわからない、立候補者の論点としていることについての知識がない、選挙に行っても行かなくても自分の意見の反映具合にたいして違いがない気がする、どの政党が選ばれてもたいして変わりがないと思う、などの意見が出た。その中でも、やはり政治に関する知識不足が大きいのではないかと思われる。罰則規定を設けて投票率を上げるだけでは意識を改革することにはならないので、根本的な問題の解決になっていない。政治家に、おもしろくてわかりやすい演説を求めても、一向に変わらないであろう。まず、選挙政治に対する知識と考え方を教育を変えることによって、国民の意識を変えていかなければならないのではないか。

 

具体例(アメリカ)

 ここで、アメリカの例を参考に考えてみたい。なぜ、アメリカなのか。アメリカの投票率は世界の中でも非常に高い、というわけではない。しかし、アメリカの大統領選挙は記憶に新しいと思うが、国中が盛り上がったという印象を受けた。日本の政治の問題には、ある問題に関しての情報収集から意思決定、説得、行動、問題解決といった、民主主義に必要な、個人の判断力の欠如が挙げられる。そして、民主主義を前面に押し出すアメリカは、「問題点を知る、自分の意見を持つ、言う」ことができるように、子供のうちから教育現場で取り組みが行われているようだからである。まず、有権者教育では価値を押し付けるのではなく、価値を決める過程に必要なコツを教える。民主主義では異なる考えが存在することを認め、尊重した上で、合意形式を導かなければならない。また、投票という意思決定の上での情報収集、比較、議論することの必要性と、争点を見るという、何が問題であるか、それに対してどんな意見があるのか、自分はどんな意見を持つのか、と論理的に自分の意見を導く訓練に、力を入れている。 

 

セサミストリートでの幼児教育

 アメリカの教育はどこからスタートしているかを見てみると、幼児向け番組「セサミストリート」が大きな役割をしているのが特徴の一つである。この番組の理念は、各国独自の社会問題や文化などをその国の子供に教えることである。また基本的な単語や数字、文章や計算もとりあげている。だが、重要なのはその影でキャラクターの多様性によって、人種偏見の目をつむのに役立っていることである。特にアメリカは、人種のるつぼといわれるほど、多くの民族、人種が住んでいる。セサミストリートをみることで人種の違いなどはたいしてことではなく、みんな一緒なんだ、と考えられる多様性の価値観を教える役割があるのだ。そしてこれはアメリカのことではないが、南アフリカでのセサミストリートの場合でも、HIVに感染した「カミ」ちゃんを登場させて、ほかの普通の子供たちとなんら変わらない姿を放映することで、現実にエイズに感染している子供たちが、学校に行っても偏見をもたれることなく、いじめもなくなったという結果も残っている。

 

ワークショップ型教育の充実

 そして、アメリカの教育方法の大きなもう一つの特徴として、ワークショップ型教育がある。ワークショップとは、参加者がお互いに共通の体験をはなしたり、一つの目的に向けて共同作業をすることで、相互理解や新しい発見、問題解決をすることだ。しかし、こはただのグループワークとは違う。グループワークとの大きな違いはファシリテーターとよばれる人が介入することだ。ファシリテーターは、ワークショップ参加者に自ら考えることを促したり、助言したりするのである。また、必ず先生というわけではなく、専門知識に詳しい人がすることもある。普通の先生がするように助けを求められたら、意見を言うのではなくて、なにより参加者に考えさせることが大事なので、助言を求められても手伝わないこともあるし、黙って経過を見守りつつ、司会を進めていく重要な役割だ。実はこのような教育方法が有権者教育にも用いられているのである。

 

 有権者教育

学校教育が有権者教育に用いられている例で小学校を見る。第一段階の小学二年生では、「一票の重み」を教えるということを教師に提案している。「10分の休憩時間は短すぎるか」といった子供が簡単に投票できるテーマからはじまり、教師は、教室のどこからでも見えるような「イエス」「ノー」と書いた紙を用意し、それを生徒に投票用紙として配る。そして投票させ、結果を見ながら「あなたの投票した票がなくなると、結果はどのように変化しますか」「この投票で何が決まりましたか」「正当に投票は行われましたか」と教師は生徒に質問し、「一票の重み」を考えさせる。

次の段階では、対象を三年生から五年生として、内容を知らないで投票する怖さを学ばせる。最初に、1「学校」2「休憩時間」3「アイスクリーム」4「宿題」5「テレビ」と書いた紙を配り、その時にほかに何の情報も与えずに、生徒達にイエスかノーで投票させる。生徒達は勝手に想像しながら印をつける。普通は「学校、イエス」「休憩時間、イエス」「アイスクリーム、イエス」「宿題、ノー」「テレビ、イエス」となる。その後に詳細な質問が書かれた投票用紙を配る。「学校の夏休み、冬休みはなくなります」「休憩時間は腕立て伏せと腹筋の時間になります」「アイスクリームはにんにく味です」「宿題は週末には出ません」「教室のテレビからはコマーシャルだけが流れます」投票用紙を手にした生徒達からはいっせいに驚きと失望でブーイングがおこるのだが、このようなことを体験することで、投票する時には詳しい情報を集めることが必要であることを痛感することになるのだ。

さらに次の小学6年生から中学2年生では、実際の選挙を教材として使うことを奨励する。投票を行うための意志決定の方法を教える。投票を誰にするか決めるための情報収集や意志決定までのプロセスをチャートで合理的に考える。この段階で最初にするのは情報を収集することである。気をつけることは、候補者が主張するすべての争点の情報を集め、一つの視点で書かれた情報ではなく、プラス面やマイナス面などさまざまな角度からの情報を集めるのである。この二つの面で十分な情報を集めてから次のチェックに進み、情報量と質は意志決定するのに十分であるかを自問する。十分であると思えば、次に情報が信用できるかどうか確認する。そして事実にあっているか、情報源は信憑性があるかなどもチェックし、最後には十分な情報収集をしたか、もう一度考える。授業では「どうしてその情報を信用できるものとしたのか」「なぜ、信用できる情報が必要ですか」などの質問をすることで生徒に情報の扱い方を確認させる。

 このように各学年ごとに段階的に教育し、生徒の政治への知識や関心を高めている、それに実際に投票することで、どのように投票をするのかというのがわかるため、大人になってからも投票に行きやすくなっている。しかし、知識や関心を高めるには学校だけの力でできるものではない。

 

生活の中での有権者教育

学校以外の場所でも、地方自治体やマスコミ、学校、NPO、家庭など、多くの協力が必要となる。身近なところでいくと、テレビ番組の力が一つに挙げられる。代表的なのは、先ほども述べたがセサミストリートで、あの様々な色のキャラクターには、人種偏見の目をつむ、多様性を自然と認められる人になる、といった意味が込められている。また、取り上げられる内容も、人としてのマナーを間接的に教えるものや、時にはエイズ問題などの社会問題まで様々である。幼児には、幼稚園の教室内でのルールを理由付きで自分たちに決めさせたり、毎週何かを持ってきては、それについてみんなに見せながら話をさせる。学校では、十分に情報収集をしないで意思決定することの怖さをゲームを通して教えたり、問題点に関するあらゆる方向から見た意見を比較・意思決定するプロセス教えたり、質問系の見出しが並ぶ政治の参考資料を使用したり、コミュニティーに実際に参加する体験学習を推進するなどしている。他にも、毎回話題の争点について情報を提供するNPOや、子供に実際に投票を経験させるキッズ投票、高校生がホワイトハウスで連邦議員を体験できる、大学生の団体が主催するプログラムなどもある。

 

日本での例(キッズ投票)

 日本においてもキッズ投票と同じような形式で模擬選挙を積極的に行っていこうという動きがある。ここで例を挙げて見ることにする2003411日(金)都知事選の投票二日前に都立武蔵高校で「模擬選挙」が行われた、流れとしては政治経済の時間やホームルームの時間を用いて「模擬選挙」の趣旨を説明し、選挙公報やマスコミのニュースや演説などで立候補者について調べるように訴えた、投票は昼休みと放課後で、もちろん投票しない権利もある、投票する際にはまず受付名簿でチェックをし、投票用紙をもらい、二重投票を防ぐ方法を実体験する、壁に貼られた選挙公報を見て、名前を確認し投票を行った、事前に実際の演説をきいたりテレビのニュースや家族と選挙のことを話したり、テレビのニュースや新聞を見て、政策の違いを考えて投票する生徒もいたようである、投票率も実際の投票率の44.9パーセントをうわまわる59.8パーセントと高いものとなった。投票の内容としても実際の結果と同じ結果が出たという。実際参加した生徒の感想として、「まったく選挙に関心がなかったが、模擬選挙をやってから、新聞やテレビを見るようになった、自分でも驚いている」「自分のもっている一票というのは全体のうちの、たった一票であるが、思い思いの一票が全体を作るのだと一票の重さを感じた」など政治に対する関心の向上が見て取れるこのような模擬選挙は積極的に導入していくべきではないだろうか。

 子供への有権者教育は、親達の投票率の向上にもつながる。子供達は、身近に選挙に関する報道などが手に入る状態であるために、自然と親にいろいろ質問する。しかし子供達に理解できるように争点を話すことは難しい。そこでキッズ投票では、家庭の中で討論会することをすすめており、親もそれに参加するためにはある程度必要な情報を取得必要がある。そして、子供達から「どの候補者を支持するのか」「この町の問題はなんですか」など質問されることで政治に参加しなければならないという気分になっていく。

 

選挙をどのように変えていくか

このように、社会全体で教育を変えることができたら、選挙制度自体の改正も必要となると考える。まず、私たちが注目したのは選挙権を持つ年齢である。日本は20歳以上とされているが、これは法的に成人になった年齢ということであるが、あまりぱっとしない理由ともいえる。他に挙げられている改正案としては、高校を終える18歳以上、義務教育を終える16歳以上、ほとんどの人が社会人となる25歳以上、などがある。ここで、私たちは中学3年生以上という案を押したいと考えた。上で述べたように、教育がより良いものに変わったとしても、自分が選挙権を持つまでに年月があくと、せっかく習った知識も意識も薄れてしまう恐れがある。また、義務教育での政治についての勉学をより現実味帯びさせるためにも、すべての国民が受ける義務教育後から選挙権取得までの年月をあけるべきではないと思う。そのために、選挙権取得の年齢を下げるべきであると考えた。次に、何歳まで年齢を引き下げるかだが、義務教育から年月をあげないとなれば16歳以上という意見が有力になるだろう。しかし、それは中学生で選挙権を持つ人もいれば、高校生から持ち始める人もいるということである。中学を卒業してから持つとなると、中学校の教師は、どれだけ自分たちの教育指導が生徒の選挙への関心を高めることができたのかを身近に感じることができず、結果、今と教育が変わらないのではないだろうか。この問題での私たちの論点は、いかに国民全員が受ける義務教育を受ける時点で、政治への関心度を上げられるかということにある。ただ、授業を聞くだけではなかなか身近に感じられない。中学生にも何らかの形で投票させるべきでないか。それは模擬選挙にするのか、それとも選挙権を持たせるのか。中学を卒業していきなり選挙権を持っても、実際に選挙を迎えると疑問点は誰に聞いたらいいのか、今回の論点はどこにあるのかをいきなり個人で調べるのは困難だといえる。初めての選挙を教師のいる元で、また授業で調べたり討論する時間を持った上で、一度経験ができたらよいのではないか。そこで今回の、年齢ではなく義務教育の最終学年から選挙権を与えるといった考えに至った。

 

新制度導入による期待できる効果

 この制度を導入することによって、学校での政治・選挙に関する教育の質向上や、子供同士で話しあうことによって上がる、政治に関するリサーチ能力の向上、また、生徒たちが政治に関する疑問を周りの大人たちに聞いたり、話題に出すことが増えるので、生徒・家庭・コミュニティーとのつながり強化や、教師、親、周辺の大人たちの政治への関心を高める効果も期待できる。有権者の年齢を下げることへは、知識や経験の少ない有権者が増えることに心配の声があがるかもしれないが、社会全体を見ると意識を高める効果が期待できる上、アメリカのボストン地区などで行われたキッズ投票では、キッズ投票が実際の選挙と全く同じ結果がでているように、キッズ投票の効用は学会でも広く認められているという事実がある。つまりは、社会全体で子供に対する教育を改善すれば、問題はないと思われる。

  次に注目したいのは、今の政治家の演説が投票を得るためにターゲットとしている年代である。今の日本では、どのような政党が選挙で選ばれているか、これはどのような政策を国民が選んでいるかということである。今のデータによると、日本では、自民党と民主党が他政党に比べ支持を集めている。長い間自民党が権力を握り続ける背景には、民主党が比較的若い世代に受けているいるものの、投票数が伸びないことが原因のひとつに挙げられている。また自民党は、古くからの日本的な体質であり、年功序列などが表面に現れている。それに対し、民主党では、自民党に対する第2の政党として、改革を目指すのに必死なので、今までの考えにとらわれないように大きな政治改革をめざしている。つまり自民党では従来の福祉政策をどのように続けていくか、を考えなのに対し民主党では、従来どおりではなく、未来の若者のためを考えているのである。

 また日本の人口分布を考えてみても、少子高齢化で高齢者の割合が多いのは明白であり、つまりこのような状況の日本では、政権をとるには、高齢者をターゲットとする必要があることがわかる。またそんな状況の中、若者たちは選挙にいって、自分たちのこの状況を変えようとしているのだろうか。グラフをみると実際に選挙に行っている若者の割合はすくないし、年代別総数を見ても少ないことがわかる。このまま高齢化のピラミッドが進むと、ターゲットとされる年代も上がり、ますます将来の若い世代の意見が反映されにくくなる恐れがあるのではないだろうか。多数を占める、高齢者にやさしい国になることも大切だが、高齢者を実際に支えていかなければならない最前線で働いている人々の意見も同様に反映されるにはどうしたらよいか。

 

アメリカの選挙制度 

  アメリカは二大政党制をとっていて、街頭演説などの選挙活動をおこない、各党から一人ずつ大統領候補者を選ぶ。その後、さらに選挙活動をおこない、11月の大統領選挙で国民はどちらかに投票する。そして、それらの票は州ごとに集計される。各州では、人口の割合によって、例えばカリフォルニア55、テキサス34、というように大統領選挙人数というものを持っており、基本的にその州内でより多くの票を集めたほうが、その州の大統領選挙人数分のポイントを得ることとなる。この選挙制度での問題点は、たとえ票全体をみると民主党のほうが多くても、大統領選挙人の数でみると共和党のほうが多いということがあり得るということだ。ある州ではわずかな差で共和党が上回ったため、その州全部のポイントを得、ある州では圧倒的に民主党が支持を得て勝ったというような場合である。そして実際、2000年のブッシュ氏とゴア氏の時にそのようなことは起こっている。それには疑問の声が起きているが、ルールはルールであり、議論のあとの決定には従うという民主主義のルールのもと、アメリカでは国民が一つにまとまるように呼びかける、というところは、民主主義教育のあらわれともいえるであろう。

  確かに、多数決といった考えには少し不可解なところがある制度であるが、今回私たちがこの制度に注目した理由こそがここにある。この性質を、高齢化の進む日本社会の選挙に応用できないかということだ。

 

新制度具体案

 私たちが注目した点は、「比をとる」ということであるが、単に人口比を取るということは考えていない。中学3年生〜20歳、21歳〜25歳、26歳〜30歳、……、70歳以上といったように、年齢層別にグループをつくる。次に、全てのグループの意見を1となるように個人の票の重さを分ける。そして、それらの票を、投票率で掛けるというやり方である。つまり、人口比には関係なく、投票率によって自分の属する世代の票の重さが大きくのも小さくもなり、意見が通るとか通らないとかが決まるということである。

 

 

参考文献

 雑誌・記事 私たちの広場 279

       日系2世からみた教育(asahi.com

       ブッシュ大統再選 ケリー氏、敗北認める電話 米大統領選挙(asahi.com

 本  判断力を鍛える PHP新書 

    比例代表制:国際比較にもとづく提案  中央公論社 西平重喜

    (大統領人選挙制度の本)

    図解ひと目でわかる!アメリカ大統領 学研 竜崎孝 著 

    16歳から選挙権の実現を〜選挙権年齢の引き下げを考える〜 GENJINブックレット

    洗脳選挙 三浦博史著

    日本の選挙 加藤秀治朗著

    現代選挙論投票行動と問題点 久礼 義一著
    アメリカの選挙制度について Roger Mozumori BCC教授

    統計でみた選挙のしくみ : 日本の選挙・世界の選挙 西平重喜著

Web Site

 衆議院選挙における投票率の推移

  http://www.stat.go.jp/datastore

 明るい選挙推進協会

  http://www.akaruisenkyo.or.jp

 衆議院選挙の年齢別投票率

  http://www.akutsu.org/repo2003.9.1.html

 民主党HP

  http://www.dpj.or.jp/0304chihosen/03_1_3.html

 日本共産党HP

  http://www.jcp.or.jp/seisaku/kodomo_edu/2000608_syiybeb_18sai.html

 選挙情報専門サイト

  http://www.election.co.jp/

 未成年模擬選挙

  http://www.rights.or.jp/youth-vote/sangiin2004/